なかちゃんの考えるマルチアンプシステムについて

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その4

その3

その2.5

その2

その1

その5

 その4で組んだシステムでそれなりに音楽を楽しんでいたなかちゃんだが、ある日I氏と話している中で「モノラルアンプってやっぱりいいよね」とM-60での体験もあったのでその良さを実感していたのだ。
するとI氏は「EXCLUSIVEのM5aが凄くいいよ」と言った。
この発言がなかちゃんの欲しい欲しい病に火を付けた。
しかし、大枚1本に手が届きそうな価格のM5aを買うだけの経済力がなかちゃんにあるはずがない。
悶悶とした日々が続く・・・
しばらく経って、中古品ならなんとかなるかも、と考える様になった。といっても中古品でも新品の半額ぐらいはするのでそれでも高額なものだった。
それに滅多に中古品が出るアンプではなく(所有者は皆、気に入って使っているのだろう)なかちゃんの勤めるオーディオショップはもちろん、他でも見かけた事がない。そんなある日、東京の某有名オーディオショップの中古品広告にEXCLUSIVE M5aの記載があった。価格も相場に比べて高くもない。意を決してなかちゃんはそのオーディオショップに電話してみた。

なかちゃん 「雑誌広告見たんですが、EXCLUSIVEのM5aまだありますか?」
ショップ店員「ああ〜、M5aはもう売れてしまいました。」

当時、M5aの中古品は出ればすぐに売れる程の人気アンプだったので掲載にタイムラグのある広告に載った時点で既に売れてしまっていたんだろう。

ショップ店員「よろしかったら入荷予約という事にさせていただきましょうか?」

もうその気になっていたなかちゃんにはこの提案を断る理由がなかった。

なかちゃん 「では入荷予約でお願いします。」

とはいってもそうそう中古品が出るアンプではないのであまり期待せずに連絡を待つ事にした。

 1ヶ月が過ぎた。なかちゃんはM5aの事はあまり意識しなくなっていて、いつもどおりの日常(いわゆるオーディオ漬けの日々)を送っていた。
そんなある日、滅多に鳴らないなかちゃんの携帯電話が鳴った。誰からだろうと思いながら(当時の携帯は相手の名前を表示する機能などない)出てみると、例の東京のオーディオショップからだった。

ショップ店員「EXCLUSIVE M5aが入荷しました」
なかちゃん 「ええ〜っ、入荷したんですか!」
ショップ店員「はい。滅多に入荷しないんですがたまたま入ってきました。どうされますか?」
なかちゃん 「買います!」

もう、即答だった。これを逃したら二度と手に入らないかもしれないと思ったからだ。

そしてM5aがなかちゃんのもとへやって来る事になる。
M5aはすぐに届いた。(対応速いね)

入れ替えでSANSUI B2103MOS VINTAGEがなかちゃんのもとを去っていく。いいアンプだった。

まず、S-101CUSTOMに繋いで鳴らしてみた。

「!!!!!!!!!!」
「こここ、これはぁ〜っ!!!!!」


もう、形容のしようがない。M5aの作り出す音楽再生空間はなかちゃんを吸い込むかの様に部屋中に広がり、またなかちゃんの心にダイレクトに入ってくる。

「この音だ!この音!!」

感動ものであった。
なかちゃんがこれまでイメージし続けた理想の表現力だった。 惚れた・・・

EXCLUSIVE M5a

M5a内部構造

EXCLUSIVE M5a
当時EXCLUSIVE(PIONEER)の最高峰パワーアンプ。この後すぐに後継機M7が発売されたがM5aの2倍の価格でなかちゃんとは縁がなかった。
M5aは擬似A級動作で300Wの大出力アンプ。擬似とはいえ通常使用の領域では殆ど純A級動作に近く、M4a程ではないが点天板は相当熱くなる。
A級動作のために専用の電源トランスと大容量フィルターコンデンサーが搭載されており、内部構造左側のトランス(四角いケース)1個と真ん中のコンデンサー(丸いやつ)の一番後ろの一つがそれである。M4aと同じ意匠のデザインはなかちゃんの気に入るところである。

 M5aの音・・・それは一言ではなかなか表現出来るものではないのだが、敢えて語ってみよう。
M5aを販売店などでちょい聴きした人もいると思う。しかし、その時に組み合わされていた他の機器などによってはM5aの良さがすぐに伝わらない事もあると思う。M5aは何気ないというかさり気ないというか、最初はサラッとした印象を受けることも多い。しかしこのさり気さは重要である。オーディオ機器に期待を寄せるが故にその音に濃さやインパクトを求めるといった事がよくある。だが、なかちゃんの経験上ではそういった機器は悪くはないのだが、往々にしてその後使い続けても最初に受けた印象と違う音を出せないという場合が多い。その音が好きならなんの問題もないが、色々な音楽をそれぞれの持つ表現力で楽しみたい時、その味わいが足を引っ張る事がある。
なかちゃんの求めていたのはどんな音楽でもその良さが伝わってくる様なアンプだったので、このM5aの何気ない鳴り出しに期待が持てた。そして暫く鳴らしていると、実はその音が非常に濃いものである事に気づく。
クリアーな空間の中から色々な音が実体感を伴ってスーッと出てくる。生々しさが感じられる。
そして時折「ハッ」とする様な表現を聴かせるのである。その音になかちゃんはゾクゾクした。
なかちゃんの五感は研ぎ澄まされ音楽空間の中にその身を委ねる。そんな感覚だ。
聴く音楽を変えてみる。すると今度はさっきまでと違うその曲独自の表現が伝わってくる。
更に曲を変えてもM5aはその曲の持つ表現を克明に伝えてくる。

まさに噛めば噛むほど味が出るというもいの。

最早逃げ出す事の出来ない世界に飛び込んでしまった。

 このアンプとの出会いがなかちゃんの音楽に対する感性を数段引き上げたようだ。音楽の聴き方が変わってしまった。振り返れば今までなんと細かな事にこだわっていたのか。解像度がどうとか、周波数レンジがどうとか、まるで重箱の隅をつつくような聴き方をしていたことを思い知らされた。
音楽の楽しさはそんなところにあるものではなかったのである。
音楽は体で聴くというか、全身で感じるものだったのだ!これまでは音楽を聴いていたのではなく分析していたのだ。愚かだった。
もう細かい事などどうでもよい。いまこの至福の時をずっと感じていたい。それこそが音楽の持つ本当の力なのだ。このアンプだけは今後何があっても手放せない。そう思った。

 この後M5aをマルチアンプシステムに繋ぐ。これだけの表現力を持ち合わせているので、主旋律が最も多い中音域に繋ぐ事にした。

良い

今までとは全然違う良さが感じられる。デザインも気に入ったM4aとM5a(あとM-60も)が並んだラックを眺めながら恍惚に浸っていたものだ。

 だが、オーディオ好きの悪い癖か、こうなると唯一ステレオパワーアンプだったM4aもモノラルパワーアンプにしたくなってきたのである。M5aがあまりに良いため、他の帯域が寂しく聴こえるのだ。
この後、一度使ってみたいと思っていたESPRIT(SONY)のTA-N900というモノラルパワーアンプを探して手に入れた。M4aを下取りに出した。M4aは中古市場でもかなりの人気で良い値で売れた。かなり気に入っていたアンプだったので手放す時はかなり惜しい気分だったが経済的に致し方ない。

 そうして全てのパワーアンプがモノラルアンプとなったなかちゃんのマルチアンプシステムが誕生した。
最後に入れたESPRIT TA-N900は密度感がありハッキrとした音で歯切れもよく積極的な印象の鳴り方だった。
やや音に明るめの色が付く印象があったが、細かい事は気にせず使う事にした。中音域はM5aで決まりなので、低音域と高音域に繋いでどちらで使うか決めることにした。

まずは低音域。音が締りバスドラムやベースの音がグイグイと前へ出てくる。ドライブ感がある。それはそれで良いのだが、ちょっと音が締まりすぎる。他のアンプとの対比で締まり過ぎてちょっと窮屈に聴こえる。高音域に繋いだM-60も元々再生周波数レンジの広いアンプではない事もあって、特に魅力が感じられない。

今度はTA-N900を高音域に。こっちの方がバランスが良い。中低域はこれまで通りで高音域からM4aで感じられたどぎつさが消えた。全体的に明るめな印象が加味されてしまうが、この組み合わせがベストだろう。

当時のなかちゃんシステム
置き場書が足りないためESPRIT TA-N900がスピーカーの上、ホーンの両外側に置いてある。
スピーカーに付いている「YAMAHA」のロゴはこのスピーカーとは無関係で前所有者がたまたま持っていたバイク用のステッカーを貼ったもの。スピーカー後方に置いてある白い衝立の様なものは吸音パネルであるが、この吸音パネルは殆ど効果がなかった。今も持っているがスピーカー後方の飾り(?)みたいなものになっている。

 これまではアンプの事ばかりだったが、ここにきて新たな問題が浮上する。
アンプの音質がかなり良くなったせいか、スピーカーの悪い部分がハッキリと再現されてしまうのである。
中音域に使っていたFOSTEXのホーン+ドライバーの音が薄く聴こえるのである。
このホーンは音のヌケも良く気持ち良い鳴り方をしてくれていたのだが、背後に取り付けられたドライバー(ホーンユニットに於ける振動板部分。この場合はリアコンプレッションドライバー)が原因の様だ。

アンプを換えたばかりなので少しの間はチャンネルディバイダーの調整やスピーカーユニットの位置合わせ(位相調整:この場合は各ユニットの前後位置調整)をしていた。調整によってかなりいい感じにはなったが、やはりドライバーの音の薄さは変わらない。
ここでなかちゃんはドライバーの交換を決断するのであった。
とはいってもこの譲ってもらったホーン+ドライバーのセット、最初から色々な対策がされていてホーンの上下に想版が貼ってあったりその上にビロードが貼られていたり、ドライバーもエポキシ樹脂で固められていてホーンとドライバーを取り外す事が出来ない。これだとホーンも交換せざるを得ない。
ドライバーはウーファーと同じTAD(TECHNICAL AUDIO DEVISES:PIONEERの業務オーディオ部門です)のTD2001と決めていたのですが、TADにはTD2001に合うホーンが用意されていない。1サイズ大きなTD4001ならそれ用のTH4001というホーンがあるがあまりに高価でとても買えない。それにこの部屋には大き過ぎて使いづらい。
そこでドラーバーはTD2001とし、ホーンは他メーカーのもので使えるものを探す事にした。

色々調べているとサイズ敵にも丁度良く、価格も手頃なホーンが見つかった。SANOというメーカーのSN500SⅡというモデルだ。

TAD TD2001

SANO SN500SⅡ

TAD TD2001
振動板にベリリウムを使用。よくあるアルミニウム振動板に比べて再生音に癖が少ない。アルニがやや軽い音でパリッとした乾燥した印象なのに対して、重量感や潤い感がしっかりと再現されると感じている。
マグネットには強力なアルニコマグネットが採用されていて反応が良く繊細な音が出る。振動板の前部にスリット状のウコライザーが付くリアコンプレッションドライバーである。スロート径(音の出口)は2インチ(約5cm)で振動板は1インチ(約2.5cm)のいわゆる1インチドライバーである。
なかちゃんが購入した時に比べて物価、原材料価格の高騰などの影響もあり、今ではその定価は当時の2倍程になっている。

SANO SN500SⅡ
確か材質はミズメザクラだったかと思う。非常に質感の高い仕上げである。ホーンの曲率はエクスポーネンシャルカーブ(指数関数曲線)になっていた。スロート出口(ホーンの奥の方)に5枚のフィンが付く。価格は当時のホーン相場からしてもかなりお買い得だった。そのかわりこのホーンは完成品ではなく、各パーツがバラバラの状態で販売されていた。購入後、自分でドライバー片手に組み立た。元々2インチドライバー用のホーンだったので同社の1インチ→2インチスロート変換アダプターを取り付けて使っていた。

なかちゃんが手の出なかったTAD TD4001ドライバーとTH4001ホーンTD4001は材質などはTD2001とほぼ同じだがサイズが全く違い、その再生音も凄いもの。殆ど金属の塊みたいなユニットで一人で持ち上げるのもやっとの重さ。TH4001はイタヤカエデ材となっており。TD4001と一緒に名機EXCLUSIVE 2402(スピーカー)に搭載されていた。
間もなくSANO SN500SⅡを購入した。
早速FOSTEXのホーン+ドライバーと入れ替えた。


「うわぁ〜〜〜!  失敗したぁ〜!!!!!#$%&’%#$”##%$&’%$#」


確かにTD2001の方は全く問題ない。いやかなり素晴らしい。
だがSANO SN500SⅡの方は・・・・・
音が前へ出ないというより、左右方向によく広がる。ステージの広さとかはよく再現されるのだが、やんわりとした音でいまいちハッキリしない。ゆったり穏やかに聴いている分には悪くないが、音楽に躍動感やノリの良さ、エネルギー感を求めると全然ダメである。

ホーンスピーカーの音に引っ掛かりがなくスーッと出てくるところが好きななかちゃんにとっては方向性が全く逆のホーンだったのである。

ホーンというのは言ってみれば音響を考慮した筒みたいなもので、ドライバーを付けて他の帯域を受け持つユニットと繋いで初めて音がわかるものなので、購入前に試聴をすることは不可能である。SN500SⅡの購入もなかちゃんにとって冒険だったのである。しかし、見事に外した。好みや使い方によってはこのホーンでないといけないという方もおられると思うが、少なくともなかちゃんの望んでいたものではなかった。
しかし、またすぐに買い換えるなどということは出来ないので暫くこのホーンを使う事にした。

そんなある日の事だった。事件が起きた。
高音域用に使っていたCORAL H-100の一方が突然鳴らなくなった。最初は何が起こったのかわからずアンプやチャンネルディバイダーなどをあれこれチェックしていたが、どこにも問題はない。まさかと思いH-100を確認しようと持ち上げた。その時・・・・

カランカラン・・・・・・・・

「エッ」

H-100の内部から何かが転がる様な音が。

「ああっ 何か外れてる!」

どうもH-100の内部でスピーカーケーブルの端子が外れてしまっている様だった。構造的に専用の道具がないとこのホーンはバラす事が出来ない。メーカーへ修理に出すしかないのだがすでにCORAL社はなくなっていた。
どうしようもない状態である。自分でバラそうと試みたが、全く開ける事が出来ない。いくつかの業者に問い合わせたが修理は不能だった。

何故、突然こんな壊れ方をしたのだろうか?ほとんど動かすこともなく衝撃を与える事もなかったのに。考えられるのは使い始めた時から何かが外れかかっていたのかもしれないという事だが、今はそんな事を考えても仕方がない。
取り敢えずチャンネルディバイダーの設定を変更してツィーターなしの2WAY仕様にして聴く事にした。

2WAY仕様で少しの間聴いていたが、高音域があまり伸びない音にいつまでも耐えられなくなったなかちゃんは、再びお得意の暴挙に出る。

「出よ、欲しい欲しい病〜〜〜」

と言ったか記憶は定かではないが、ホーンツィーターの購入を決意した。
今まで散々色々と使ってきて(紹介していない小物もいっぱいあります)中途半端なものを買うとろくなことはない、大概は使い物にならない事を少しは学習していたので今回はシッカリとしたものを用意しようと思った。

それはEXCLUSIVE ET-703だ。基本的にTAD TD2001と同じ設計思想で作られており、音質的にもちゃんと合う事はわかっていた。

CORAL H-100

CORAL H-100
ホーンらしいヌケの良さがあり気持ちよく鳴ってくれた。音質には多少荒っぽいところもあったが、それも個性と鳴りっぷりの良さを楽しんだものである。

不意のお亡くなりにはショックを受けた。

EXCLUSIVE ET703

EXCLUSIVE ET703
EXCLUSIVEはPIONEERの高級オーディオブランド。このET703はEXCLUSIVEブランドだが、業務ブランドTADと同じ設計思想で作られており、音質的にも似た性格を持つ。振動板はTD2001と同じベリリウムとなっており、マグネットには強力なコバルトマグネットが使われている。

買った。ET703を買った。今思えばあの時無理して買っておいて良かった。TD2001同様現在その定価は思いっきり高くなっている。定価は2倍以上になっているのだ。

ET703は大正解だった。CORAL H-100とは一線を画す高音質でヌケが良いだけでなく、非常に緻密で透明度が高い。
歪も極めて良く抑えられており高音域の5kHz以上(-24dB/oct)でこれだけ鳴らしても歌声がクリアーにハッキリと聴こえる。JBLなどの同クラスのツィーターで同じ事を試した事があったが、もうジャリジャリで歪みが多く何を歌っているのか聴き取れないぐらいだった。
ET703は予想以上の音質だった。

これで再び3WAYマルチアンプシステム音楽を楽しむなかちゃんなのであった。

このまま順調にオーディオライフが続けば良かったのだが、

この後、またなかちゃんは不幸に見舞われるのである。

だが、この時なかちゃんはそんなことを知る由もなかった。

この時のなかちゃんシステム
だいぶそれらしくなってきた。

ESPRIT TA-N900

TA-N900内部構造

1980年代SONYが展開していた高級オーディオブランドESPRIT(エスプリ)のトップモデルパワーアンプ。左右独立のモノラル構成で電源部に斬新なパルス電源方式を採用。ダンピングの効いた積極的な鳴り方は魅力的だった。